近年は植えっぱなしで毎年咲く原種チューリップが注目を集めていますね。原種系は植えっぱなしでも来年咲かないことはないですが、育てている環境により来年の開花が期待できるかどうか変わってきます。一般サイズのチューリップも多様な園芸種が販売されています。今回、原種チューリップの球根を424個育てた結果、来年も開花が見込める球根を1.6倍に増やすことができました。植えっぱなしと呼ばれていても掘り上げをしたことより球根が腐ったり病気になるのを防げた結果です。そこで、本記事は掘り上げが必要な理由や掘り起こすタイミング・見極め方、その後の保存法や手入れについてまとめます。
掘り上げる理由(根拠)
チューリップの掘り上げには賛否ありますが、掘り上げた方が分球した子球根を病害虫から守ることができます。掘り上げる第一理由はチューリップの細菌性伝染病である腐敗病・カビの影響を最小限にするためです。では、順序立てて説明していきますね。
病気になる3つの要因
病気になる要因がなければ球根はいつまでも元気のはず。例えば、屋根があって雨が当たらず日陰で適度な日光が当たり涼しい場所、水はけのよい土壌で、さらに病原菌さえ侵入しなければ病気にかかりにくいと言えます。病気になる要因は、1.病原菌の存在、2.病原菌が増殖できる媒体があること、3.病原菌の住みか(球根)があることの3つです。この3つが揃うと病気に感染して球根は溶けてなくなってしまいます。
では、この3つを一つずつ解説していきます。
●病原菌の存在
病気になる一番の要因である、病原菌が球根にいることはまずは消毒で予防することができますね。しかし、球根以外にも植付けをしている用土にも菌は存在しています。無菌室のような場所で育てるわけではないので風で菌が飛んできたり、飛来する虫によって病原体が運ばれてきたります。つまり、常在菌がいることも含めて病原体の存在を完全にゼロにすることは不可能と言えます。
●病原菌が増殖できる媒体があること
増殖できる媒体があることとは、病原体が増殖できる住み家があるという意味です。病原菌は、じめじめした水はけが悪い環境や栄養が豊富な多肥な土壌が好みです。一般のチューリップの用土づくりで腐葉土を使いますが、腐葉土は水はけがよく一方で入れ過ぎると保水性を高めてしまいます。腐葉土は、字のごとく葉が腐敗した土です。長雨に当たったり通気性が悪くなると病原体のベッドになることもあり得ます。一方で原種チューリップが好む土づくりでは腐葉土は使わないので病原菌が増殖できる環境を一つ取り除くことができます。そういう意味では原種チューリップは植えっぱなしでも病気になりにくいといえるのかもしれませんね。
そこで、チューリップの特徴として、忘れてはいけないことがあります。
連作が嫌い
チューリップを育てる上で知って欲しいことがチューリップは連作が苦手ということです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、連作とは、今年育てた土で来年も引き続き同じ品種を育てることです。土壌菌の繁殖により、連作障害として園芸では、花のサイズや色合い、育ち具合などに支障が出てしまい本来の特徴がでないもしくは花が咲かないという症状が生じてしまいます。
原種チューリップは植えっぱなしでも大丈夫と言われますが、実は100%大丈夫といえばそうではありません。病気になって腐敗する球根もあります。原種チューリップの球根のお話を少ししますね。実はこの軽くて小さな球根は面白いことに土の中をわずかながらゆっくりと移動していきます。品種によって差がありますが、土の中に深く潜ったり、球根が違う場所で咲いたりすることがあり、これは鳥や動物に球根を食べられる食害を防ぐとともに同じ土で咲くことが苦手なので本能で過ごしやすい土壌環境や花を咲かせやすい場所に少しずつ移動していると推測できます。種子植物は種を飛ばすことでいろんな環境下で繁殖を試みることができますが球根は一度定着した土壌から広範囲の移動は難しいんです。チューリップは球根だけではなく種を作りますので種子を運ぶことができますが、メインは球根による分球が増殖法に位置づけられています。
原産地の気候に合わせた環境
チューリップの原産地の多くはトルコです。(トルコからオランダに広がり、オランダでチューリップブームが起きたことよりオランダでのチューリップ生産や品種改良が盛んにおこなわれています。そのため日本で販売されているチューリップの生産地はオランダと書かれていることが多いです。)原種チューリップは赤道付近の乾燥した地帯ですね。オランダやトルコ、日本の気候との違いは、日本には雨季と猛暑があることです。6月~8月の雨と暑さが球根には適した環境ではないので日本では土壌の中に植えっぱなしにするよりは地上で乾燥させるながら休眠する保存法が日本でのチューリップ球根の維持には欠かせない育て方となっています。
分球後の親球根の皮が腐敗するのを防ぐ
子球根の分球は親球根の中で行われます。ということは、子球根を包んでいるのは最初は親球根の茶色の皮なんです。掘り上げた後の作業では、子球根を取るために親球根の皮を優しく取り除いていきます。自然環境下では親球根の皮は時間とともに分解され土に戻っていきますが、もし適した環境でなかった場合、雨による土壌の湿気や晴れの日に太陽の熱エネルギーで腐敗やカビの原因となる可能性があります。
10月に掘り起こし時の親球根の皮。
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(解説)病気が繁殖しないように屋根下で水を与えず乾燥させた状態で植えっぱなしにして10月に掘り起こした時の親球根の皮です。土壌の微生物分解は時間がかかるためまだ形を留めて硬い外側が残っていました。
病気になった親球根の皮
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この状態で長期間、土の中で保存されていると思うとゾッとしますネ。
まとめ
さて、どうしてチューリップは掘り起こす必要があるのかの理由をまとめを書きます。
2. 雨季と猛暑が苦手で球根が弱ってしまい病気にかかりやすくなる
3. チューリップ球根は連作を嫌うので同じ用土で育てない方がよい
5. 親球根が腐敗した場合、子球根に病気が伝染するのを防ぐため
10月に掘り上げた球根
残念ながら一般のチューリップ球根は参考例を見せることが難しいぐらい消滅していますので、正直、公開できる写真がありません。原種チューリップはというと、子球根が残っていました。
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(解説)分球した子球根は自らの外皮ができ濃い茶色になっていました。数が少なく、あまり分球できなかったのではと感じるほど。しかし、分球した痕跡を残した状態の球根も見つけることができました。
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(解説)分球できていなのかと思っていましたが、分球はしていたみたいです。ここで気になることが一つ。やっぱり適切な時期に掘り上げた方が良かったと思うことは、①分球したが2球同士くっついたままなのでこのまま発根をしたら根が絡み合い栄養の取り合いになってしまうことや鉢植えだと根詰まりを起こしてしまう可能性があります。次に、②子球根にカビが生えていました。カビの進行度から確認すると掘り上げる2週間前ぐらいにカビが生え始めたのではと推測できます。
そして、掘り起こすべきだったと確信した決定的な球根がこれです。見たくない方はスルーしてください。
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(解説)球根を外から見た感じ普通の球根なんです。しかし、手で触るとぶにゅとした感触で、球根を二つに割ってみると中身はドロドロに溶けていて悪臭がしました。完全に腐敗していたのです。
5月に掘り上げた球根
最初にこの章の補足をします。
fa-asterisk鹿児島の気候上、5月に掘り上げています。地域によって掘り上げる時期は異なります。基本は、5月に開花が終わり、その後1ヶ月育てたのちに雨季に入る前までに掘り上げます。野外育ちやビニールハウス育ちなど育てる環境によっても異なってきます。
掘り上げ直後の球根をお見せします。
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(解説)【写真2】と比較すると全く球根の見た目が違うことが一目瞭然としてお分かりになると思います。球根がピンク色をしているのは品種の特徴です。【写真5】の球根の品種はリジーです。
(解説)これは5月に掘り上げた時に子球根が取れた個数や割合、一方で腐敗率を占めています。消毒有り無しの項目があるけど、単純に分球率を見てくださいね。22品種育てたうち「11.ポリクロマ」を除いて21品種が100%以上の分球率です。つまり、いろんな品種を植えても95%の確率で、平均164.1%の子球根を取ることが出てきています。もちろん、掘り上げ時期を早めたことだけが要因ではありません。育てた用土や育て方にも比例していきます。
さて、【写真2】と【写真5】より、5月に掘り上げた時期と10月に掘り上げた時期の球根を比較すると、適切な時期に掘り上げた球根は状態が良くカビや病気が発生する確率が低く、来年度も開花できる子球根を多く獲得することができていると判断できます。(5月と10月との掘り上げたときの子球根をカウントした比較をまた数値化できるといいですが、今回は主観的な考察も含めてまとめさせいただきました。)
fa-asterisk項目「消毒なし④」は昨年から保管していた球根を繰り返し使っています。
ではでは、来年用の良い球根をたくさん残すためのコツ、その①掘り上げる時期と目安について教えちゃいます。
掘り上げる時期と目安
時期
掘り上げる時期は、開花から約1ヶ月後になります。その1ヶ月後を判断する目安がチューリップの葉の変色です。開花時期にもよりますがおおよそ1ヶ月で葉が茶色くなってきます。
目安:葉の変色
掘り上げる時期の目安として「チューリップの葉が8割枯れた」が目印です。しかし、状況に応じて掘り上げをした方が良いと考えらえます。数値に囚われずに天候や育っている環境に適応して掘り起こしてあげることが成功の秘訣です。
●原種チューリップの掘り上げ
掘り上げた原種チューリップの事例を2つご紹介します。一つは葉が黄色く変色した状態の株、二つ目は葉が8割枯れた状態の株です。
葉がほとんど変色しています。このまま雨が降ると腐れてしまいそうなぐらいです。
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掘り上げて親球根の皮をむいた時の子球根の状態を載せますね。掘り上げ後の水洗いはしてないです。
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分球の様子でーす。めちゃくちゃキレイで来年度も開花できる球根ができていました。写真を2つご紹介します。
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親球根の痕跡はなく、子球根が1球分球していました。とてもキレイで形の良い球根です。
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掘り上げてビックリ。こんなことってあるの!?と驚いのは親球根1個に対して4球も子球根が作られていました。親球根を隙間なく囲んだ状態で子球根もしっかり太っていました。分球率やばすぎです。衝撃写真はこちら。
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ランダムに球根を取って子球根の状態を確認しても、惚れ惚れするぐらいキレイな状態の球根です。
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●一般のチューリップ球根の掘り上げ
一般のチューリップを掘り起こしてみました。葉は8割も枯れていない状態で今から枯れ始めるといった状態です。
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葉は緑色をして葉緑体がまだ活性化されているように見えますが葉の根本、地面際の葉が黄色く変色している点や蒸し暑い日と雨が降る日が交代で続いたので、天気を見計らって掘り上げました。
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早速、皮を剥きますね。
しっかり分球していることが確認できると思います。手に取ってみるとこんな感じです。
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原種チューリップのようにたくさん分球できたわけではありませんが、親球根1個に対して子球根1個取ることができました。真っ白でキレイですね。
実は、【写真15】の球根は掘り上げた後に水洗いしています。水洗いをした理由は、単に球根に土が付いて汚かったからです。原種チューリップと違って、植え付けている用土が異なるので、用土の性質上、球根が汚れてしまったので洗いました。あとちょうど雨上がり後に球根を抜いてしまったのが良くなかったですね。
後でネットを調べてみると、チューリップ球根を掘り上げて水洗いをする方、水洗いをしない方の2通りの意見がありましたよ。
掘り上げ方
掘り上げるときは、埋まっている球根の周囲の用土を手の力でほぐしてから抜いていきます。スコップを使うと球根にキズがついたり、スコップが刺さってしまいます。表面に見えている葉を引っ張っても基本は問題ないです。表面に見えている葉は子球根につながっているわけではないので子球根が傷ついたりダメになったりすることはないと思われます。
原種チューリップの掘り上げは子どもの力で抜けます。
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鉢植えなので表面近くに植えていることや用土の性質上、空気の層がたくさんあり抜きやすくなっています。
一般のチューリップの掘り上げも基本は同じで、球根の周囲をほぐしてから、球根を取り上げました。丁寧に取り上げられればやりやすい掘り方でOKです。深植えをしている場合は土を掘り起こしてあげた方がいいです。あと、できれば軍手した方がいいかな。
掘り上げた後の球根の手入れ
水で洗った球根のその後
一般のチューリップを水洗いして並べてみました。
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掘り上げた後に水洗いをした球根をさらに消毒もしないで放置しました。球根にとっては一番、置かれている環境が悪いですね。そんな状態で正常に球根が保存できるのか調べてみます。ということで、掘り上げから約1ヶ月経った球根がこちら。
外側がしっかり茶色くなりました。
ただ、少し斑点が見えるような!?
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悪くはない膨らみ方と外皮の茶色も色が良く、大きな病気の予兆は見当たらないです。水洗いしても腐るわけではなさそうですね。球根を水洗いした時の考察をまとめます。水洗いした球根はキズや痛みなど何一つないとてもキレイな球根になりました。水洗い後はしっかり乾燥させたことがコツです。
では、次は掘り起こした原種チューリップの球根を水で洗わなかった状態を書きます。
水で洗わない球根のその後
水で洗わないというより水洗いする必要がないぐらい、球根がキレイな状態は自然乾燥が一番です。原種チューリップの用土は水はけがよく、軽石や結晶のような石の配合で作っているので腐葉土のように手が汚れる土に植えているわけではないので、球根に付着する土がないと言えます。また3日間は天気が良く乾燥した日が続いたことにより、用土がしっかり乾燥したことも理由です。用土が乾燥しているかどうかは鉢を持ち上げた時の鉢の重さで判断します。
水洗いや拭いてもいない球根
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同じ品種を掘り起こして一カ所にまとめて、1ヶ月様子を見てみます。掘り上げた球根をそのまま放置している状態です。風通しが良い場所に置いていました。
1ヶ月経った球根はこちら
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外皮が茶色くなり、艶がある球根が出来上がりました。なんか、市販で購入した時の親球根の状態と変わりないほどです。ここまで上手に子球根を完成できるなんて嬉しい限りです。
掘り上げ後の消毒について
掘り上げ後の消毒は、正直言って賛否分かれると思います。販売しているチューリップ球根のパッケージを見ても全商品が必ず消毒済みとなっていないことより、消毒は義務ではなさそうですね。ただ、消毒はした方が保管後の球根を病気から予防することができます。
詳しい記事は別記事でまとめていますので気になる方は関連記事をお読みくださいね。
長期保存する場所
来年用の球根が出来上がったら植付まで、①湿気がない、②乾燥した、③風通しのよい、④涼しい場所で保管します。病気が入っていると思う球根は処分するか、状態の良い球根に感染しないように分けて保管します。
来年開花が見込める球根のみを保管
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最後に(まとめ)
かなり長文でしたので、ここまで読んでいただきましてありがとうございます。もう少しチューリップについて語らせてくださいね。
チューリップの掘り上げ時期は葉が枯れ込んだぐらいがちょうどよいと言えます。しかし必ずしも良い球根が取れると保証するものではないです。品種によっては球根が上手に分球できないチューリップもいますし、病気にかかりやすい品種もいます。しかし、よい球根を次年度に残すためには病気にかかりやすい状況から早めに脱出させてあげることですね。開花してから葉が枯れ込むまで約1ヶ月かかる見込みなので、いつ開花したかを覚えておいてその1ヶ月前後で葉の状態を見極めて掘り起こすとよいでしょう。掘り上げた球根は水洗いをしてもしなくても外皮が茶色くなり次年度用の球根を作りあげることができますが、水洗いをする場合はポイントを押さえておく必要があります。
ちなみに個人的には水洗いしない派に1票かな。けど、水洗いしても植付けまで腐らずしっかり植え付けができる球根の保存ができたので場合によりけりかな。
でわでわ、このあたりで。
最後に、チューリップの球根が分球しているとめちゃくちゃ嬉しい。
分球した三つ子ちゃん。
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おしまーい。